邂逅、そして対決



部屋でベッドに座りウパと会話したり本を読んだりしていた。
鼻歌が混じるほど良い気分だ。
雨条は、夜型である。
深夜になると元気になるのである。


0時半を過ぎた頃だろうか。
不意に気配を感じた。
最近、どうも奇声が聞こえたり人影が過ぎったりする。
ちょっと気狂っているのかもしれないと自分の事ながら心配だ。
が、今夜は違った。
部屋の角、天井との境に近い壁に奴はいた。
(ていうか画像載せといて引っ張る意味無し。)


我が家、カビは蔓延ってますがゴ○は出ない家なんですよ。
屋内で奴を見たのなんて何年ぶり?くらいに出ないんですよ。
イメージ沸かないかもしれませんが虫ですから、
本来外に住んでるもんです。
近所が森なのでよく樹液についてたりするのは見ます。
遠目に見るとカブトムシやクワガタのようかもしれません。
似たような色の昆虫ですから…
兎に角、久々に奴を目にした僕は動転したわけですよ。


…心を落ち着けて奴を見据えた。
奴もこちらの視線に気付いたのか、慎重に歩を進めている。
―――正確さを求めるならばやはり新聞紙か?
奴が床へは下りてきそうも無いのを認め、
リビングへ得物を取りに向かう。
奴はまだ天井の近くにいる。
何か台に乗らなくては届きそうも無いが、
承知の上で壁を叩き奴を牽制した。
奴には翅がある。こちらも慎重にならなくては。


椅子に登り奴に手の届く高さになった。
しかし、ここにきて決心が揺らぐ。
―――本当に叩き潰せるか?壁は汚れないか?
というかそもそも度胸の無い僕は躊躇する気持ちを認めざるをえなかった。
作戦を変更する。
最終兵器彼女…でなく、掃除機。


再びリビングに赴き得物を探した。
本体はある。が、首が無い。
長くなってもらわないと、
こちらに飛んでこられては困る。
奴は強暴だ、攻撃する者の顔面に向かって羽ばたくのだ。
回避する余裕を持つためにも長さが欲しい。
―――あった。
準備は整った。
部屋へ戻り、慎重にコンセントを差し込む。
そろそろと奴の方へと掃除機の口を向け、
深夜だと言うのに近所迷惑も顧みず最大出力でスイッチオンッッ…!!!


ゴォォォォオ…ばさっ…ゴォォ


嫌な手応えと共に奴は吸い込まれた。
直ぐに攻撃の手を緩め(基、スイッチを切り)中から奴が奇跡の生還、
なんてことになったら恐ろしいので暫く稼動させる。
ごぉぉ。
五月蝿い、が、なんともいえず静けさに満ちた空間だった。


嫌な汗をかいてしまった。
顔を洗い、掃除機を片付ける。
数年ぶりの奴との邂逅が自室だとは…
掃除をしよう。
そう堅く決意した深夜の出来事だった。