夜遊び


 ゴミ捨ては収集日の前日の夜にする。夜間のゴミ出しは本当は駄目なのだけれど、早起きするのが嫌なのだ。うっかりマンションの住民と顔を合わせると気まずかったりするので、いつも物陰に隠れながら収集場所に向かう。傍目に見ると怪しい。
 夜中に出歩くのが好きだった。時に太陽へ憎悪に近い感情を抱く僕は、夜の暗さと静謐さ、人間の少なさが好ましかった。18歳未満のオコサマは深夜の徘徊行動を禁じられているわけだが、その運が悪ければ補導されてしまうというスリルも気に入っていた。同年代の友人達よりも幾分か大人びた印象を持たせていた自分だけれど、なんのことはない、悪いことに惹かれる他愛ない年代だったのだ。実際今までに何度も補導されたわけだが、飲酒喫煙窃盗等で捕まったことはまだ無いので可愛いものだろう。(「まだ」というのは、ただの言葉の綾で、自分はとても善良な人間なので、ごにょごにょ。)
 そんなわけで夜特有の空気のにおいを堪能しつつゴミ捨てにあたった。鼻歌でも歌いたいような気分だが、善良な僕は近隣住民の安眠を慮る。なんて思い遣り!
 我が家では一杯になったゴミ袋を庭に放っておく。一般ゴミの回収は週に3度もあるが毎回出すのは面倒臭いので、一週間分くらいまとめて捨てるのだ。一人で捨てるのはちょっと大変な量のこともあるが家族は手伝ってくれない。早々に寝てしまう。ずるい。
 今週も手近な袋を掴む。出来れば一度で済ませたいところだが、残念な事にこの両の手では足りそうも無かった。仕方ないので二回に分ける。第一陣を集積場に放り二度目を取りに戻った。残りは大きなポリ袋がひとつ。
 夜目は利くほうで、道路の反対側の街灯が垣根越しに届く明かりだけでもポリ袋をよく見ることが出来た。僕の見間違いでなければ、庭の端に埋れていたこの最期の袋の表面を蟻の大群が闊歩していた。ついでに小さなナメクジも数匹、認めることが出来た。最悪だ。虫が苦手なわけではないが、触るのを躊躇わせる光景だった。誤って蟻の一匹も潰してしまったら気分が悪い。自慢ではないが不殺生を信条にしている僕としては、無益な殺生はいただけなかった。仕方なく袋の端を指先で摘むようにして持つ。千切れないうちに捨ててこなくては。



(ゴミ捨ては無事に済んだんですが、よく考えると翌朝回収された蟻さんと蛞蝓さんは焼却場で灰も残らないほど焼き尽くされるわけで、僕が先に潰してしまった方がよほど親切だったかな、と反省したわけですが。南無。)
06/06/05